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ほぼノンフィクション

大嫌い。昔は楽しかった。意味もなくずぶ濡れになった。通学を共にする友人達と。楽しかった、否定はしない。成長と共に楽しみは無くなった。

 

不意に降り出した夕立。僕は近くのガード下に飛び込んだ。闖入者に動きが止まった。雨音に途切れるラジカセ。手には蛍光。彼は再び踊り始めた。初めて生で見たオタ芸。しなやかで力強く魅了された。脚元に置いた鞄にジャケットを畳んだ。決まったフィニッシュに拍手。はにかむ顔は曇天に映えた。ラジカセを手に走り去る。彼は雨上がりの星空の下に消えた。

 

僕はガード下を通る様になった。多くは横目に通り過ぎた。気付けば大技のループで歓迎してくれた。少し早く帰路についた僕はドリンクを手にガードへ向かった。アップに余念のない彼が笑った。ドリンクのパス。空振りの旋風脚。右手に掴まれたドリンクを飲み干した。

 

蛍光ピンクのリターンパス。僕は洪家拳に構えた。ラジカセのリズムに合わせた演武。グリーンに光りが呼応した。目紛しく巡る。まるでフラクタル。時計回りのグリーン。反時計回りのピンク。大の字に伸びた旋風脚。フィニッシュがガードに響いた。息の乱れぬ彼が羨ましかった。

 

おじさんの何?ヤバいよね?

昔に習った洪家拳

俺にも教えてよ?回転系増やしたいんだ!

 

輝く真っ直ぐな眼差し。僕はジャケットを脱いで再び演武した。手にはピンク。脚首にグリーンを纏い。彼は見様見真似。20分もすれば様になる。恐ろしいガキだ。帰る頃には一通り出来ていた。もちろん形だけだったが。それ以降一緒に踊る事は無かった。会えば話しオタ芸を見学した。

 

残暑厳しい9月。僕は学祭に招待された。ステージは既に始まっていた。演劇、バンド、漫才。観客に父兄以外の女子が増える。夕暮れ時。広いステージに彼が上がった。ガード下は狭過ぎた。戸惑う彼。ソロは厳しいか…黒尽くめの覆面がステージに舞い上がった。

 

中央でのフェイスオフ。跳び下がり抱拳礼。歓声も音楽も消えた。即興のオタ芸。2人のバトル。複雑なステップ。閃光の拳。見せ技を出来るだけ。頷いた彼。フィニッシュか。バク転からの連続旋風脚。しなやかに滑らかに円弧を描く。彼と交差した3回転。終わりだよ。

 

 

左右入れ替わる抱拳礼。夕立を歓声が搔き消した。